<アニメシリーズ>鬼滅の刃 無限列車編
<アニメシリーズ>鬼滅の刃 無限列車編 ―竈門炭治郎を考察―
<アニメシリーズ>鬼滅の刃 無限列車編 ―我妻善逸を考察―
ぜひ前回記事と併せて読んでみてください。
本記事では、『鬼滅の刃』の作者 吾峠呼世晴さんが、無限列車編で「夢」という側面からキャラクターに対して何を描いたのかを考察します。
今回は嘴平伊之助の考察です。
集英社:『鬼滅の刃』7巻より
伊之助は獣の呼吸の使い手で、赤子のときに山に捨てられイノシシに育てられたという少年です。
普段からイノシシの被り物をしていますが、素顔は女の子のように奇麗です。
イノシシに育てられたと聞くと、フランスのアヴェロン県で発見された野生児、ヴィクトールを思い出します。
推定12歳の時に発見されたヴィクトールは、捕獲された後5~6年間で言語を学びましたが、話すことも読み書きもできませんでした。
ですが、伊之助は違います。
伊之助はとても幼い頃、山の下にある民家のおじいさんに餌付けをされて、言葉を教わったとされています。
動物的な感覚を色濃く持った人間という特殊なキャラクターです。
伊之助の無意識の世界を考察
伊之助の見ている夢は、少し広めの洞窟の中を炭治郎、善逸、禰豆子を子分として引き連れ、探検をしているというものです。
そしてよく見ると、無限列車がムカデ?のような生き物になって丸くなっている描写もあります。
これは、初めて列車を見た伊之助がそれを「主」と名付け、生き物として認識したからだと思います。
人が衝撃を受けた記憶は、前意識と無意識のなかを行き来するように夢に出てきやすくなります。
ですので、そういったことが表現されているのではないかと思います。
さて、伊之助自身が意識できない心のなかを考察すると次のようになります。
■細長い迷路のような洞窟
特筆すべきは、伊之助は夢を見ている空間と無意識の空間の形状が異なるものの、延長線上でつながっているような描き方がされていることです。
炭治郎は実家の空間から広い空が広がる穏やかな空間、善逸は森の中から真っ暗な闇、杏寿郎は実家から石畳と燃える炎というように、他の人たちは夢と無意識の環境が変わっています。
これは、伊之助自身が前意識(思い出そうとすれば思い出せる心の領域)と無意識(自覚がない心の領域)にあまり差がないことを示しています。
つまり、原則的に欲望のまま生きている可能性が高く、同時に他の人より複雑な記憶容量を使って来なかった可能性があります。
人との出会いや会話・出来事が少ない分、無意識化で保管するほどの思い出がない可能性が高いということです。
■伊之助は子分になる人を探している
伊之助は自分の子分になる人を探しています。
これは夢でも無意識層でもです。
このことから、自分が中心人物になりたいという欲求をストレートに表していることが分かります。
普段の性格(特に炭治郎と初めて出会ったとき)とそのままです。
炭治郎や善逸にも「子分にしてやる」と言っていることから、欲求に忠実に過ごしているのだと理解できます。
ここで疑問なのが、なぜ「手下」ではなく「子分」なのか?
伊之助は子分を欲しがっていますが、手下と子分で違うのは自分が支配者になるか、親分になるかの違いでしょう。
親分は子分を助け、子分は親分のために頑張ります。
子分をつくり自分が親分になるという仕組みは、非常に人情深いと感じます。
イノシシに育てられたとはいえ、こういったところに伊之助の人間味を感じずにいられません。
『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』より嘴平伊之助
(C) 吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
炭治郎・善逸の存在と煉獄杏寿郎から教えてもらったこと
伊之助は子分を持ち、自分が親分になることを望んでいます。
親分は命をかけて子分を守ります。
自分たちのことを言葉通り命がけで守ってくれた煉獄杏寿郎に対し、親分としての気質を感じて、強く思うところがあったのかもしれません。
炭治郎が泣き崩れて何もできなくなっていたとき、善逸が状況を理解するのに混乱していたとき、伊之助だけは杏寿郎から託された言葉を胸に「今から修行するぞ」と言って奮い立たせます。
それは、誰よりも杏寿郎を親分として尊敬したからではないでしょうか。
山の中で獣に育てられた伊之助だからこそ、死の怖さ、命のはかなさを知っているような気がします。
だからこそ誰よりも強さに飢えて、仲間を傷付けることを拒むのかもしれません。
最終巻で伊之助が隊員や柱達のかたき討ちのように立ち向かっていく姿も、炭治郎に対して剣が振るえなくなった姿も、そう思うとより一層、伊之助の人間としての心中を切なく見ることができます。
遊郭編以降は、これから鬼殺隊のみんなとご飯を食べて仲良くなっていく伊之助の姿が、アニメーションでどのように描かれるのか楽しみです。
※禰豆子の「禰」は「ネ+爾」が正しい表記です。
神奈川県生まれ。心理カウンセラー・キャリアコンサルトの有資格者。うつ病 / パニック障害 / 適応障害 / 依存症 / などの精神疾患から仕事や日常的な悩みなどを幅広くカウンセリング活動を行う。社会問題から心理学関連、カウンセラー活動記録、研修・教育、など人や仕事に関わるジャンルでライティングを行う。趣味は、アニメ鑑賞、競馬、散歩。採用コンサルタント、就業ケアマネージャーとしても活動。