ここ数年、以前に比べてさまざまなメディアで性犯罪のニュースが増えていることをうけ、「性犯罪者の性格などに特定の傾向はあるのか?」
という質問を定期的に受けるようになりました。
性犯罪者といってもさまざまありますが、代表的なものでは強制性交等罪を中心に、強制わいせつ罪、公然わいせつ罪などが挙げられます。
他にも下着泥棒(窃盗)、児童買春、児童ポルノ法などもあります。
性犯罪という枠組みではないものの、性に関した違反行為も同列に語りたいと思います。
こちらは痴漢、異性への付きまとい(ストーキング)、盗撮、のぞきなどが該当します。
(※痴漢や盗撮、のぞきがなぜ性犯罪に統合されないのかという話はまた別の機会に…。)
性被害相談を受ける心理カウンセラーの見解
私は心理カウンセラーとして、独自の性格検査を作成し利用しています。
あくまで性格検査ですが、その人の特性や傾向を把握することには大いに役立ちます。
このような性格検査や適性検査は、何千人何万人という検査結果を集めて質問項目を調整し、結果と事実を照らし合わせることで作成されます。
今回のように、性犯罪を起こす人の性格的な特性有無を判断できるかというと、その答えは「NO」です。
そもそも、“性犯罪者は性格的に問題があるから犯罪を犯すのか”という点も判定することはできません。
私は男性ですが、心理カウンセラーの立場として、女性から性被害相談を受ける機会が少なくありません。
しかし、一般的な心理学者や心理カウンセラーでは、何千人何万人の不特定多数の性犯罪者に出会う機会はありませんし、そういった検査結果があるのであればすでに発表されていてしかるべきですが、現在では信頼性の高いそういった結果データは発表されていないと認識しています。
心理テストや適性検査・性格検査というのは、信頼度が必要になってきますし、その信頼度はゆうに90%を超えてこないと信頼性に欠けてしまいます。
もし無理やりにそういう統計データを利用して分類を作るのであれば、以下のようなことであれば伝えることができます。
<法務省が発表する犯罪白書(犯罪白書)より>
※平成27年~29年の3年間のデータから引用
強制性交罪・強制わいせつ罪の検挙数の統合 ▶男性…99.6% ▶女性…00.4% |
(※あくまでも犯罪者のなかの性別の割合の話ですので、男性の99.6%が性犯罪を起こすということでは決してありません。誤解のないようご注意ください。)
この結果が示すように、最も信頼性が高い分類の仕方は
『男性か女性か』
ということになります。
ただ、男性のなかから「○○な傾向を持つ人は特に性犯罪を起こす恐れがある」ということを、性格や検査のみで高い信頼度をもって抽出することはとても難しいと言えます。
どちらかというと、この事実を受け止めるということが必要だと感じます。
『性犯罪者のほぼ100%が男性であること』
を認識しなければなりません。
自分は性犯罪を起こさないので関係ないと思う方もいるかもしれませんが、女性が男性に対して“性的被害を受ける可能性を背負って接している”という事実を理解してほしいと思います。
性的な視点で言えば、女性は男性に対して常に恐怖心や無意味な緊張感、疑念などを抱いているということに変わりありません。
性犯罪者が犯行に及ぶ原因
性格検査や適性検査で傾向をあぶりだすことは難しいですが、何が理由で性犯罪を犯してしまうのかという点については、いくつも考えることができます。
心理カウンセラーの目線から、可能性として挙げられるものを4つほどご紹介します。
しかし、あくまで可能性の話ですので、該当する人がいたとしても参考程度にとどめてください。
■1:理性の欠如
最も考えられる性犯罪の原因として、理性の欠如を挙げたいと思います。
人間には自我がありますが、自我は人が完全にコントロールできる感情の7分の1程度のことを指しています。
人間の理性を理解しようとするとき、心理学者のジークムント・フロイトは以下のように説明しました。
精神・こころは、上から「意識」「前意識」「無意識」によって分けられます。
海上に浮かび上がる部分を「意識」と呼び、意識下の人間の心は全体の7分の1ほどであるとしたのです。
そして残り大半の7分の6は「前意識」と「エス・イド」で構成されているという理論を伝えました。
その層は以下のようになっています。
第1層 意識 …自分自身が自覚できる自分の心
→理性と欲求のコントロール
第2層 前意識 …思い出そうとすると思い出せる領域の心
→浅い記憶や思いの領域
第3層 無意識 …自分自身では全く自覚できない心
→欲望や本心などの真意
図のように、第1層から第3層までの橋渡しとして「超自我」があります。
第3層の欲望や本心などを自我として表現するときに、「超自我」は善悪の判断や調整を行います。
理性が欠如しているというのは、この超自我の部分のネジが緩んだり、タガが外れてしまっている状態を指します。
いわゆる野生動物と同じようなものですね。
これはもともと緩んでいる人もいれば、お酒で緩んでしまったり、薬物乱用により超自我が破壊されてしまったりとさまざまです。
自我がコントロールできないというのは、“相手の気持ち”も“この後のこと”も考えることができないような状態と言えます。
自分の性欲がコントロールできなくなるのが性犯罪の中心的な原因と考えられます。
<参考記事>
<アニメシリーズ>鬼滅の刃 無限列車編
鬼滅の刃の話を用いて、ジークムント・フロイトの自我(局所論)について説明しています。ぜひお読みください。
■2:防衛機制の投影
防衛機制の投影は、自分が思っていることを相手も思っているだろうと思い込むことです。
これはストーカーのように付きまとっているだけにも関わらず、
「自分がこんなに好きなんだから彼女も自分のことを好きに決まっている。だからこれはストーカーではなく、見守っているだけなんだ…。」
といった感覚になることです。
他にも、
・性交やキスなどの了承を得たと勘違いする。
・嫌だと言っているのに恥ずかしがっているだけだと勘違いする。
・さっきから自分をちらちら見ているから好きなのかもしれない。
・今の仕草は自分を誘っているのかもしれない。
・あの格好は間違いなくOKサインだ。
などが考えられますね。
投影は性に関することだけではありませんが、その思いが強ければ強いほど感情の錯誤が生まれやすいと考えられるので、愛情や好きという気持ちとの親和性は非常に強いと思います。
<参考記事>
心理学から学ぶ【防衛機制 投影とは】
■3:他害行為・他傷行為
これは可能性の1つして取り上げさせていただきます。
本来の性行為はお互いの了承や理解があり成立するものです。
その了承がないにも関わらず、強制的に行為に及ぶというのは通常は考えられません。
それは力で抑えつけた暴力行為と変わりなく、暴力以上に深い傷が残ります。
この時、“性行為を行うことが目的ではなく、傷つけること自体が目的だった場合”は他害行為・他傷行為の1種と言えるのではないかと考えます。
他害行為・他傷行為は主に、知的障害、発達障害の児童が起こしてしまう言葉として使われます。
自傷行為(=自分を傷つけてしまう行為)もありますが、他害行為・他傷行為は自分と違う人を傷つけてしまう行動を指します。
ここで間違えてほしくないのですが、「知的障がい者や発達障がい者が性犯罪を起こす可能性が高い」と言っているわけではありません。
他害行為や他傷行為の多くは、行動障害という枠組みのなかの現象であり、明確な理由はまだ定まっているわけではありません。
しかし、他害行為や他傷行為を引き起こす要因として、次のようなことが見えてきています。
・不安と緊張が高まっている。 ・不安や緊張から逃げたいという感情が強い。 ・不安や緊張を誰にも伝えられない、うまく伝えられない。 ・不安や緊張がある今の状態をすぐにわかってほしい。 |
こういった感情が生まれているにも関わらず、自分自身がその状況から抜け出すことができないというもどかしさから他害行為や他傷行為につながるのであれば、障がいを持たない人でもおおいに起こり得ることだと私は考えています。
大きなストレスや緊張が原因で人を傷つけることが目的化してしまったとき、無差別または手の届く範囲で性犯罪に発展する可能性はありますし、これまでも事例としてあったのではないかと思います。
この場合、前述した【1:理性の欠如】が起き、自我のコントロール不足によって性的部分のネジが緩んでいる、または外れてしまっていることが掛け合わさっていると考えられます。
■4:特定の失感情症
性格特性のなかでも、とても特別な失感情症というものがあります。
失感情症とは「悔しい」「悲しい」「つらい」「見返したい」「ムカつく」などの感情を抱いているとわかっているのに、それを言語化できない状態になり、いつしかどんな感情だったかさえ忘れていってしまうものです。
先天的な要素が強い失感情症ですが、成長過程のなかでその特性が強くなることがあります。
失感情症の特徴として、徐々に感情そのものを感じにくくなっていくことが挙げられます。
いくら性欲の制御ができない状況に陥ったとしても、性欲が強すぎて「相手がこの後どういう気持ちになるかわからない」というのは考えづらいと言えます。
そうなると、相手の気持ちを理解したり、気を配るという思考が欠如してしまっていると考えるのが妥当でしょう。
この場合も、失感情症ということだけが性的な犯罪を犯す原因になるとは言えず、【1:理性の欠如】が大きく関係していると思われます。
<参考記事>感情を言語化できない… 失感情症という性格特性を正しく知ろう
さいごに
性犯罪のほぼ100%は男性が起こすものであり、その事実を男性が理解することが最も望まれることであると言えます。
そして、性犯罪が起こるメカニズムはここで挙げられたもの以外でも多く存在します。
今回は他のメディアなどではあまり考察されてない原因を探してご紹介しました。
しかしながら、1番大きな原因となるのは理性の欠如です。
今後も性犯罪については重点的に考察を続けていきます。
神奈川県生まれ。心理カウンセラー・キャリアコンサルトの有資格者。うつ病 / パニック障害 / 適応障害 / 依存症 / などの精神疾患から仕事や日常的な悩みなどを幅広くカウンセリング活動を行う。社会問題から心理学関連、カウンセラー活動記録、研修・教育、など人や仕事に関わるジャンルでライティングを行う。趣味は、アニメ鑑賞、競馬、散歩。採用コンサルタント、就業ケアマネージャーとしても活動。