筆者は心理カウンセラーという仕事柄、死ぬことを考える人と話す機会が多いです。
この記事でお話しする私の友人が飛び降り自殺をしたのは、私が心理カウンセラーになる前でした。
そして今、その友人の自殺を経て思ったことを皆さんに伝えたいと思います。
数年前、私の友人が自殺で亡くなりました。(以後、Aさんと記載)
Aさんと私はとても親しいわけではありませんでしたが、一緒に食事をしたり、語り合ったりするような関係でした。
私がAさんの訃報を知った時は、悲しいというより「なんで…」という思いが強かったです。
※本記事では、本人の特定を避けるために環境や状況などの詳細な情報は省いています。
また、心理カウンセラーが教える 自殺の種類とその傾向で紹介した用語を用いていますので、こちらもぜひご覧ください。
Aさんの自殺
少しの期間ですが、私は彼と同じ職場で働いていたことがあります。
部署も異なり、そこまで親しいわけではありませんでしたが、食事やお酒の席はしばしばあったため、たまに仕事や私生活の話をする程度の関係でした。
ですので、Aさんから見た私も、私から見たAさんも、お互いにとって特別というわけではありませんでした。
それでも、Aさんが“自殺”で亡くなったと聞いたときはショックを受けました。
Aさんは、日ごろから「死にたい」「消えたい」と口にしていました。
振り返ると「自分には価値がない」「何もできないし何も持っていない」というようなことを、お酒の席で聞いたことがあったなと思い出しました。
それでも笑顔が絶えない人で、ひどい精神疾患を持っているような印象は全くなく、普段は楽しそうに過ごしていましたし、とにかくお酒と女性が好きな人でした。
あまり詮索するのはよいことではありませんが、どうしても詳しいことが知りたくて、Aさんの同僚に亡くなる直前の状況を聞いたことがあります。
・亡くなった当時、30代半ばだったAさんは未婚で特定の恋人もいなかった。
・仕事をしているときは、そんな雰囲気や素振りは一切なかった。
・同僚にとっても非常に驚く出来事だった。
そういった内容でした。
ですが、私には気になることがありました。
自殺直前の様子
■自己本位的自殺と集団本位的自殺の併合
Aさんは、日ごろから自分を否定するような言動がありました。
「自分に価値がない」といったことを言っていたことから、自己本位的自殺(孤独感が強く、自分の存在価値がわからない)の状態だったと想定できます。
同時に彼が所属していた職場は、3ヵ月前に大きなプロジェクトを終えていました。
しかし、プロジェクトは大成功というわけではなく、中心人物だった彼はその責任を強く感じていたとも考えられます。
これは、集団本位的自殺(集団との結びつきが強く、責任感に押しつぶされる)の要素として考えられます。
そのため、プロジェクトの終了後に特定の人やグループと強い結びつきがなかったことも、自殺への拍車をかけたのかもしれません。
これは燃え尽き症候群にも近い状態と言えます。
燃え尽き症候群のような喪失感と焦燥感、仕事で納得する成功ができずに終わってしまった無力感、そしてその弱さを見せていけないというリーダーシップと見栄もあったのかもしれません。
■言わなくなった自殺願望
冒頭でも伝えましたが、彼はお酒の席で自分自身を卑下し、「死にたい」などと話す人でした。
私以外の他の同僚や友人にも、昔から同じようなことを口にしていたようです。
しかし、3ヵ月前のプロジェクト終了直後からはそういったことを一切言わなくなったそうで、周囲の人は「最近は落ち着いているな」と感じていたとのことでした。
■社交的だったAさんがおとなしい感じがした
Aさんはいろいろな人と食事をしたり、お酒を飲みに行ったりする人でしたが、自殺前の2ヵ月間程はほとんど交友がなくなっていたようです。
思い返せば、普通に接してはいるが、私生活や未来の話をすることはほとんどなかったとのことでした。
Aさんに起こった2つの明確な変化
話を聞きまとめていくと、Aさんには明確に2つの変化が起こっていたことがわかりました。
1.自殺願望を話さなくなったこと
2.自然に接するが今までの趣向を行っていない
どちらも気づきづらいことです。
自殺願望を話さなくなったことは、一見すれば「精神が安定している」とも思えますし、趣向の変化もよくあることです。
これに気づいて防ごうというのは、非常に難しいことだと思います。
用意された遺書
Aさんは遺書を用意していました。
とてもたくさんの記載があったそうですが、当然ながらたまに会う程度の私宛の記述はなく、どのような内容かはわかりません。
しかし、突発的に飛び降りたのであれば遺書の用意はできません。
きっとずっと前から苦しい思いを抱いて、1文字1文字しっかりと思いを伝えるために書き留めたのだと思うと、とても切ない気持ちになりました。
自殺をすると決めた時から、何を書くのか、どう書いて伝えるか、自分の周りのことについても、いろいろと考えてこの世を去る準備をしていたのだと思います。
それを考えているときの彼はどんな気持ちだったのか、苦しかったのか、切なかったのか、絶望していたのか、死ぬことで社会からの解放を感じていたのか、今となっては知る由もありません。
Aさんは自殺して幸せだったのでしょうか。
自殺することで幸せになれたのでしょうか。
生きていたほうがよかったのでしょうか。
わからないことばかりです。
それでも私は“自殺したほうがいい”なんて答えは出したくないと思ってしまいます。
最後に
自殺は当事者の問題であり、その人の感じ方・考え方次第だと思われがちだと思います。
特に、今回のAさんのように個人にフォーカスを当ててしまうと、当事者の問題ということがピックアップされてしまいます。
しかし私としては、自殺は社会的な現象だと思っています。
自殺をする人は、何もせずして突然に1人で「自殺したい」とは思い始めません。
Aさんの場合、プロジェクトの終了、その後の職業生活、自尊心の弱化など、本人だけではどうすることもできない環境だったと言えます。
グループや団体、同僚、友達、家族など、Aさんの持つコミュニティや社会が“自殺は個人の問題でもあるし、また社会の問題でもある”と認識できていれば、もっと違う答えがあったのではないかと思います。
自殺は、自分で自分を殺す行為です。
しかし、本質的には“社会も自殺に加担している”と私は発信していきたいと思っています。
最近、イジメ・差別・犯罪の被害者による自殺が後を絶ちません。
これもまさしく大なり小なりコミュニティの問題だと認識されているように、仕事をする社会人、勉強する学生、老後のシニア層など、個人の自殺であったとしても、その人だけの問題ではなく、なんらかのその人とのつながりが影響しているとは思いませんか。
そして、気づかないうちに自分が加担していた場合、その人も非常に強いストレスを抱えることになります。
そうならないためにも、社会の一員、コミュニティの一員として、どのように人と接していくのか、どのような社会を作っていくのかを皆さんにもぜひ考えてほしいと願っています。
神奈川県生まれ。心理カウンセラー・キャリアコンサルトの有資格者。うつ病 / パニック障害 / 適応障害 / 依存症 / などの精神疾患から仕事や日常的な悩みなどを幅広くカウンセリング活動を行う。社会問題から心理学関連、カウンセラー活動記録、研修・教育、など人や仕事に関わるジャンルでライティングを行う。趣味は、アニメ鑑賞、競馬、散歩。採用コンサルタント、就業ケアマネージャーとしても活動。