マージナルマンとは? 混同されがちなモラトリアムとの細かな違いを説明します

マージナルマンとは? 混同されがちなモラトリアムとの細かな違いを説明します

モラトリアムと混同しがちなマージナルマン、違いを理解して心理的考察力を高めよう


皆さんは『マージナルマン』という言葉をご存じですか?
マージナル・マン、マージナルマン、表記は違えど同じ意味の言葉です。

※以前FABOnews.内でモラトリアムの記事を挙げていますので、そちらの記事を読んでからお進みいただくことをお勧めします。


マージナルマンとは

R.E.パークが作った造語で、マージナルマンを一言で表すと「境界人」と訳されることが一般的です。
境界人と言われても、いまいち想像がつきづらいですよね。

ここでいう境界人とは、“2つ以上の異なる文化や集団・コミュニティに同等の影響を受けている人で、なおかつ、はっきりとどちらにも属していない人”と言えます。

いくつか日本国内での例を挙げます。


■学校や会社での派閥
AさんグループとBさんグループという派閥がある場合、どちらにも属してはいないがどちらとも仲が悪くなく、両方のグループの意見に対し賛同する面と賛同できない面があるというような場合です。

例えば、学校行事や社内行事で2つの案が対立しているときに、どちらも一長一短あるため決めかねていて、しっかりと所属することができないときなどが挙げられます。


■キリスト教と仏教
日本にはキリスト協会と寺院・神社などが点在しています。

例えば、教会でミサに参加しながら、神社にもお参りにいく無宗教者が該当します。
これは普段過ごしている生活のなかの一部をとっても、同様に捉えられることが存在します。

自分自身は宗教に関してなんの思い入れもないが、クリスマスイベント(キリスト教)を楽しみにしているし、年始になったらお参りにも行くというようなことも同じことです。

こう考えると、宗教上において日本人はマージナルマンの割合が高いのではないかと思います。


■男女差別
日本に限らずとも性やジェンダーという言葉を考え直す機会が多い昨今、男女についてのさまざまな意見が発信されています。

東京の医大にて、女性の受験者が減点されていた問題。
この事例1つをとってみても、これまでの日本の文化や習慣・慣習によって女性に対する差別的な見方がされてきたことは明白な事実です。

仮に医学部の男性が、上記の“女性差別”に対して「女性に対する減点は間違っている」と賛同した場合。

自分は減点されていなかった側になるため、減点されて落第した女性の状況を助けることで、自分の能力が女性より劣っているのではないかと考えてしまったり、もしかしたら自分が合格したせいで女性の人生を狂わせたのではないかと考えてしまったりする可能性もあります。

また、この議題の場合、どちらにも“所属していない”ということが要件から外れてしまっているかのように思うかもしれませんが、この例でいう所属は“女性差別を肯定してきた集団”と“女性差別を否定する集団”と言えるので、医学部の男性は“まだどちらでもない状態”という考え方になります。


■日本に移住してきた方々
日本に移住してきた外国籍だった方々も、マージナルマンの対象と言えます。

移住してきたことで元の母国のコミュニティから外れており、日本の文化や生活様式になじみ切っていないため、どちらにも所属できていないということになります。


このようにマージナルマン(境界人)は、広い範囲で見たときと狭い範囲で見たときによって判断が異なります。

モラトリアム期(モラトリアム人間)とマージナルマン(境界人)

モラトリアム期のおさらいとして、E.H.エリクソンの言葉「支払い猶予中」という元の意味があります。

モラトリアムとは、一般的に18歳~22歳頃に訪れる次のような状態を指す期間です。

1.自我(アイデンティティ)が発達途中の状態
2.自己による意思決定をしようと模索している状態
3.上記2つを試行錯誤している状態


つまり自我が完全ではなく、人生の選択における意思決定ができないような、大人になるために猶予されている時間を過ごしている状態の人を指します。

一方でマージナルマンは、冒頭でもお伝えしている通りR.E.パークが作った造語ですが、のちにK.レヴィン(社会心理学者)が提唱した児童期・青年期・成人期という人生を3分した概念のなかの“青年期”を指します。

K.レヴィンの言い回しをそのまま受け取ると「子どもではないが、大人でもない」という意味でマージナルマンを使っています。

両者ともに“大人と子どもの間”と捉えると、モラトリアム(モラトリアム人間)とマージナルマン(境界人)は同じではないかという考え方に至ります。

これが、モラトリアムとマージナルマンが混同してしまう理由です。



実際には何が違うのか?

一言で表すのであれば、“青年期=18歳~22歳前後を指す”という意味では同じです。
しかし、言葉そのものの意味は異なります。

▶モラトリアム
大人になるための準備をしている段階であり、大人へ成長しようとして葛藤している状態を指します。

▶マージナルマン
子どもと大人のどちらからも影響を受けていて、不安定ながらにどちらにも足を踏み入れており、しっかりと属せていない状態を指します。

ただし、造語を作ったR.E.パーク本人は「大人と子どもの境界」について発信していません。
後からその言葉を使ったK.レヴィンが言及しています。

どちらとも年齢層や状況は同じ意味です。
・モラトリアムは成長しようとしている18歳~22歳前後
・マージナルマンはどちらともに属してしまっていてどっちつかずの18歳~22歳前後
と言い直すとわかりやすいかもしれません。

自我や意思決定をする自分になろうとするモラトリアムと、どちらにも影響を受けつつどちらかにしっかりと属することができないマージナルマンは、決定的に“その人の状態”が違うと言えます。

仮に、大人になりたいのになれない場合を指して使うのであれば、モラトリアムは「自分の意志を決定できない人」、マージナルマンは「優柔不断な人」と表現することもできます。




いかがでしたでしょうか。

同じようなものを表す言葉であっても、その人の状態によってモラトリアムかマージナルマンかが変わってきます。
細かい違いですが、しっかりと理解しておくことをお勧めします。

この記事のライター

神奈川県生まれ。心理カウンセラー・キャリアコンサルトの有資格者。うつ病 / パニック障害 / 適応障害 / 依存症 / などの精神疾患から仕事や日常的な悩みなどを幅広くカウンセリング活動を行う。社会問題から心理学関連、カウンセラー活動記録、研修・教育、など人や仕事に関わるジャンルでライティングを行う。趣味は、アニメ鑑賞、競馬、散歩。採用コンサルタント、就業ケアマネージャーとしても活動。

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