<はじめに>
この文章は実際の言葉から乖離(かいり)しない程度に、かつ、本人の特定ができないように編集されています。
同じような悩みを抱える人やこれから同じような環境になり得る方に、
カウンセリング事例を紹介することで少しでも役立つレポートを発信することが目的です。
このカウンセリングは、社内カウンセラーとしての活動の記録です。
外部カウンセラーとして契約企業の従業員を定期的にカウンセリングするというものです。
相談内容は、仕事以外も含めてその人に関わるすべての相談が可能になっています。
今回は大学新卒入社を終えてわずか2週間で退職してしまった22歳の男性が相談者です。
新卒の入社後カウンセリングから事例を紹介します。
カウンセリングは1時間程度行いましたが、感情を表情や言葉などに強く出すことはせずに淡々とした受け答えをされていました。
非常に落ち着いていますが、怒りと絶望が含まれる言葉が印象的でした。
―研修お疲れさまです。この面談(カウンセリング)は新入社員向けで全員に行うものです。
気軽に話してくれると嬉しいです。
はい、わかりました。
―入社2日目から5日間、研修を受けてみて体や気持ちに何か不調などはありますか?
体は特に問題ないですね。
気持ちは…不調かどうか分かりませんが、良い感じではありません。
―良い感じではないというと?
何か困っていることや悩みなどがあれば教えていただけますか?
うーん、新卒なので何が正解なのかわからないんで、自分が間違っているのかもしれませんけど。
研修講師、会社の人事の人の対応に疑問しかありません。
―疑問しかない…具体的にどんなことがあったか教えてもらえますか?
(※カウンセラーも新卒も外部企業の研修であることを知っています。)
研修内容は社会とは何か、社会人としての心構えなどで、そういう風にした方がいいんだろうなとは思うんですけど、全部が唐突だなと感じてしまうんです。
それは僕以外もそうだと言っていましたし。
例えばTPOを知る研修の時に、シチュエーションと行動の説明をされた後、簡単にいうと「空気を読んで行動することが正しい」と言われたんです。
そこで、僕が「空気を読むってどういうことですか?」と質問したら、
講師の人が「今、君が質問した行為こそが空気を読めてないことだよ。それが分からないのであれば今は空気を読むのは難しいね」と言われたんです。
自分としては「?」という疑問と怒りがこみ上げてきました。
他の人が質問した時も、「この資料に答えが書いてある。あと1000回読んで理解してください」というような返答をしていました。
当然、自分たちは新卒で研修を受けさせてもらっているとは思うのですが、研修講師の態度が偉そうというか、こちらを見下しているというか、そんな気がします。
―それは大人である私からしても質疑応答が成立しているとは思いませんね。
質問するとそれが疑問と怒りに変わってたまっていくだけという感じなんですかね…
はい、本当にその通りです。
―ちなみに、その現状について研修を指示している人事の人の伝えたりしましたか?
しました。
新卒担当の人事に自分1人ですが、同じようなことを話しました。
―その人事の方はなんて言っていました?
「そういうもんだよ、社会って。まだわからないだろうけど、それを分かるために研修してるんだから」と言っていました。
―そうですか、私はカウンセリング担当なので研修内容や企業方針についての話や提言をすることをする立場ではないんですが、ちょっと違和感がありますね。
ちょっと言葉を選ぶのが難しいんですけど。それを言われてどういう気持ちになりましたか?
どういう気持ちといわれると、なんか残念というか悲しいというか、もうどうでもいいかなって感じに思いました。
―残念、悲しい、どうでもいい…ですか。残念というとどのように残念と思ったんでしょうか。
そうですね、もっと対等にというと違うかもしれませんが、新卒と講師、人事の方の間の距離間なんですかね。
感覚ですけど、基本的に新卒みんなが発言することをまともに取り合わないような気がしています。
そういうものだと言われたらそれまでなんですけど。
自分たちを採用してくれてすごくうれしかったんですけど、なんで自分も含めて採用されたのかと考えてしまいますね。
ある特定の条件が合えば誰でも良かったのかなというのがあるんだと思います。
確かに僕らにはまだ能力も経験もないので当たり前なのかもしれませんけど…
―なるほど。講師も人事もまともに取り合ってくれていないと感じて、なんで自分たちがここにいるのかが分からなくなってしまった。
もっと言うと、自分たちが会社に必要とされているのかさえもわからない、というように理解しましたが、間違っていたら教えてください。
そうだと思います。
きっとそういうことです。
本カウンセリングはここまでが前段となります。
大学でも高校でもそうですが、学生から社会に出るタイミングでは心情変化が起こりやすい状況になります。
これは20才~22才で主に起こる“モラトリアム期”の影響が強い可能性が高いからです。
モラトリアム期は自己がなんなのかという探求の時期を指します。
そして、このモラトリアム期は反抗期ほど認知度が高くなく、本人も知らないうちに終わっていることが多いのです。
そのため、多くの大人の皆さんがまるで自分に縁がないことだと認識することになり、
モラトリアム期に訪れる悩みや困難を目の当たりにしていると“若さのせい”だとか“心が弱い”“まだまだ子供だから"という扱いをすることも多々あります。
今回、この相談者の新卒社員の彼はおそらくモラトリアム期が影響していると考えることができます。
この流れの中で彼が進むべき道は、カウンセラーが決めることではありません。
相談者の中で他者を意識せずに自分がどういう道を選ぶのかという大事な選択に思考を巡らせる必要があるのですが…。
この研修が彼にどのような影響を与えたのかによって、非常に難しい心理状態になると考えながら話を続けました。
カウンセリングレポート
『やっている意味がわからない―新卒研修1週間で何が起きたのか、半年の就活から入社直後の地獄―(後編)』
神奈川県生まれ。心理カウンセラー・キャリアコンサルトの有資格者。うつ病 / パニック障害 / 適応障害 / 依存症 / などの精神疾患から仕事や日常的な悩みなどを幅広くカウンセリング活動を行う。社会問題から心理学関連、カウンセラー活動記録、研修・教育、など人や仕事に関わるジャンルでライティングを行う。趣味は、アニメ鑑賞、競馬、散歩。採用コンサルタント、就業ケアマネージャーとしても活動。