カウンセリングレポート|心が抑圧された状態の実例

カウンセリングレポート|心が抑圧された状態の実例

実際の話を元に“心が抑圧された状態”を理解してみましょう。


この記事は、【うつ病・適応障害など】人が苦しむ原因にほぼ100%関わるもので説明した
“心が抑圧された状態”を知るために、実例をカウンセリングレポートとしてまとめたものです。
まず上記リンクの記事をご覧になってから読み進めていただくのをお勧めします。


【ケース1】24歳女性が感じた不審な会社の文化

24歳女性のTさんは、キャリアアップとキャリアチェンジのために、新卒入社し3年目のIT企業から、ベンチャー色が強く経営がうなぎのぼりの別のIT企業へ転職しました。

転職先のサービスは非常に卓越されたもので、サービスが存在する意義を理解できる納得感のあるものでした。

しかし、そのサービスを上手に使うためにどうしてもサポートが必要になっていました。

そんな顧客へのサービス提供のサポート部隊に配属されたTさん。
次々にサービスの利用企業が増える一方で、利用方法が難しいという理由でサービス解約が増えてきていることを気にかけていました。


そんななか、状況を改善するために全社的な会議が行われました。
そこでTさんは会社の意向を伝えられ、耳を疑いました。

会社の意向は「利用企業へのサポートを縮小する」ということでした。


Tさんとしては、サービス解約を阻止する目的ならば、情報収集からのサービス改善やサポートの強化、利用顧客の意見を重視するべきという発想でした。

Tさんは中途の新入社員の身でありながら、全社会議の最後に勇気を絞って自分の意見を挙げました。

しかし、会社の意向は覆ることがなく、直属の上司からは「会社が決めたことだから」という回答。
先輩社員からは「私も間違っていると思う」「同じことを思っていた」という話を会議後に聞きました。


Tさんは「それならばなぜ自分から意見を言わないのか?」「自分が意見したときになぜ賛同しなかったのか?」そんな気持ちになりました。


そしてその後1年あまり働き、たどり着いた答えは「会社の決定は誰が何を言っても変わることがない」ということでした。

「だから違うと思っていても、誰も意見を言わないのか」と悟ったようです。


Tさんはその後、その企業を退社してしまいました。




このような状況は、心が抑圧されている状態に陥ってしまっています。

Tさん自身の考えや気持ちを伝えたとしても、その考えや気持ちを汲み取ってくれることもなく、最初からあってもなくてもいいもののように扱われてしまっていると言えます。


とはいえ、企業という法人では、一個人の意見が通って会社の意向が大きく変わることは少ないはずです。

しかし、Tさんが納得できるような説明もなく、他の同僚や先輩も同じ考えにも関わらず諦めきってしまっているという状況は、Tさんにとって「自分の必要性・存在意義はなく、自分の思考や感情は無意味だ」と感じさせられるようなものです。

自分が到底受け入れられないような意見や文化が生まれていて、それを受け入れるだけではなく、自分のアイデンティティを抑えつけなければいけません。
これでは防衛機制の抑制や抑圧の状態が生まれてしまいます。


この場合、Tさんにとって納得がいく理由や別の考え方に対する理解などがあれば、抑圧や抑制とは違った結果になっていたと考えられます。


Tさんがどんな人物であるかに関わらず、誰にでも起こりうる可能性がある、会社内で起こりやすい代表的な例だと言えます。



【ケース2】32歳男性が自分自身にかけてしまった負荷

これはYさんが中途社員で入社したコールセンター事業を行う会社での出来事です。

Yさんは約10年のコールセンター経験を生かして、社員として都内のコールセンター会社に転職しました。

YさんはコールセンターのSV(スーパーバイザー※業務対応者兼管理者)として長年の経験がありましたが、クライアント(取引先)の対応はほとんどなく、自らが電話を取りながらスタッフや業務をまとめるようなポジションでの採用でした。


そんなYさんは、配属後1ヵ月程度で、とある地方都市で立ち上げたばかりコールセンタースタッフ教育、そして現場の安定的な運用を任されました。

Yさんは自分にはちょっと難易度が高いかもしれないということを上司に伝えましたが、フォローやバックアップはしっかりやるからということで承諾し、地方都市に向かいました。


業務内容の確認や新規採用者へのフォロー・研修・教育をこなし、着々と運用開始の準備をしていました。
知らない街で友人・知人がいないYさんは、毎日9:00~25:00まで仕事をしていましたが、他にすることもなく苦ではなかったと言います。


しかし、その後すぐにYさんを苦しみが襲うことになります。


運用が開始された直後に想定以上の業務を次々と依頼されてしまい、それを断れずに受けてしまっていたのです。
Yさんはクライアント対応の経験がなく、言われるがまま対応を行ってしまいました。

その結果、必要以上の負荷が自分にのしかかることとなります。


そして契約外とも言える業務も受けることになり、その直後に大きなミスを犯してしまいました。

結果的に地方採用した新入社員に負荷をかけてしまい、本社からもクライアントからも叱責(しっせき)を受け、さらに信頼を取り戻すために業務が激化し、借りているマンスリーマンションに帰ることも2日に1回になりました。


私はこの時点で初めて、社内カウンセラーの立場としてYさんの話を直接聞きました。

残念ながら、Yさんはすでに睡眠障害、摂食障害、判断力低下、身なりに気を使えなくなる、時間感覚・曜日感覚の欠如、涙もろさなど、さまざまなうつ病・適応障害の症状だらけとなっていました。

私から本社へ要休暇の進言と心療内科の受診の必要性を伝えた結果、重度のうつ病で休業者として扱うことになりました。
ここまで、Yさんが入社してから2ヵ月以内に起こった出来事です。


当然ながら、もっとうまく仕事ができる方もいるはずですし、Yさんの能力不足の部分もあるかとは思います。

しかし、仕事ができない人は無理をして心を患ってもいいということにはなりません。




Yさんは会社から任されたことに対して、おそらく自分は応えることができないとわかっていながら、自分の不安感や恐怖感を押し殺して努め続けた結果、心を患うことになってしまいました。

自分の手の範囲から溢れてしまったことがすべて悪い方へと転がってしまい、収集がつかなくなった状態と言えるでしょう。


Yさんのように自分の不安感や恐怖感を押し殺して過ごさなければいけないということも、抑圧された状態と言えます。

企業が中途社員の経験者だから大丈夫だろうと個人に任せきってしまい、Yさんがどういう人なのか、どういう思考や感情を抱く人なのかということを考慮することが抜け落ちてしまっているように感じます。


先述のTさんのように、自分の意見を伝えて、自分のアイデンティティを抑えつけなければいけないという状況とは異なりますが、自分の気持ちを吐露することができず、自分のアイデンティティを隠し辛抱するということは、結果的には同じような心の抑圧状態である言えます。



いかがでしょうか。

2つの例に共通していることは、“自我”を必要とされていないということです。

人は誰でもオリジナルであり、2つとして全く同じ特性は存在しません。そんな異なる人たちの共存体が会社です。


1つの意見に左右されているようでは、大きな組織であればあるほどうまくいくわけはありませんが、唯一無二の個人であることを無視するようなことを続けていけば、この2人のようにただただ苦しみを生むだけの結果しか生まれないでしょう。

この記事のライター

神奈川県生まれ。心理カウンセラー・キャリアコンサルトの有資格者。うつ病 / パニック障害 / 適応障害 / 依存症 / などの精神疾患から仕事や日常的な悩みなどを幅広くカウンセリング活動を行う。社会問題から心理学関連、カウンセラー活動記録、研修・教育、など人や仕事に関わるジャンルでライティングを行う。趣味は、アニメ鑑賞、競馬、散歩。採用コンサルタント、就業ケアマネージャーとしても活動。

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