<はじめに>
この文章は実際の言葉から乖離(かいり)しない程度に、かつ、本人の特定ができないように編集されています。
同じような悩みを抱える人やこれから同じような環境になり得る方に、カウンセリング事例を紹介することで少しでも役立つレポートを発信することが目的です。
本内容は前編の続きとなっています。
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―心に引っかかるところ?
はい。先ほどお話しした通り、自分自身の中で忘れていた部分は理解したつもりです。
あと、きっといろいろなことがズレていたんだなって…。
でも、会社での自分の立ち位置を考えると苦しいというか、もやもやするというか。
―会社での自分の立ち位置…。心がもやもやするというのは具体的にどのような感情なのか、言葉にできそうなら教えていただきたいのですが。
そうですね、なんか心が曇るというか…もやがかかってはっきりしない、ぼやけて見えていて、ムカムカしてきます。
―なるほど、ありがとうございます。
その心のもやもやの原因はなんとなく心当たりはあるのでしょうか?
どのようなことを考えるそうなるのかわかりますか?
はい。私は本社からグループの子会社に転籍したのですが、同じ建物の別フロアということで、本社の時の上司とも話をするのですが、その状況の時にたまたま通りかかった現在の子会社の上司が加わって、3人で話しをすることもあるんです。
その時、その組み合わせ、というか、会話の内容にすごい違和感を感じてしまうことが多くて。
―本社の上司と、現上司との立ち話ということですね。どのような違和感ですか。
もしよければ違和感がある会話の一部なども教えていただければ嬉しいです。
私が休業する直前のことなんですけど、本社の上司が体調が悪そうなのを察して心配してくれてたところに、現上司もその話に参加して「さすが本社からの転籍組です」とか「良く働いてくれてる」とか「頑張っているんです」って言うんです。
もうすぐ昇給昇格の話もあるし…といったような話をし始めてたんです。
評価してくれることは嬉しいんですけど、なんか話がかみ合ってないような気がしてしまって。
現上司は普段スムーズにコミュニケーションを取れる方なのでそれもあいまって…。
本社の上司がいる前でだけなぜか私のことを褒めるような感じがして気持ち悪いというか、もやもやするというか…。
―本社の上司の前だと、今の上司は態度や言動が変わってしまうということですね。
しかし、気持ちが悪いというか何というか執拗(しつよう)に褒めてくるような感じなんですね。
はい、その意図が分からなくて。
本社の部長職とグループ会社の部長職でそのやり取りをすることに違和感を感じています。
―褒められる…ですか。
すみません、1つ伺いたいことがあるのですが、今現在はお仕事には通常復帰されているん ですか?
復帰はしていますが、フレックス時短が認められていて出勤と在宅は自由勤務となっています。
―そうですか、まずは良かったです。復帰後に休業者を気遣える勤務体系を構築されているのは素晴らしいですね。
復帰後も上司と同じような状況になったことはありますか?
復帰直後に1度同じ状況になったことがあります。
その時は現上司が本社の上司に平謝りしていました。褒められることはなかったんですけど…そこまで謝るものなのかな?って思うほど頭を下げていました。
―なるほど、ありがとうございます。
その時の気持ちと、褒められているときの気持ちに違いはありますか?
気にしたことなかったですけど、同じかもしれません。
同じようにやり取りの違和感のようなものを感じていますね。
あ、あと今の今まで忘れていましたが、休業直前に現上司がいないところで本社の上司に「戻ってきてもいいんだよ」って言われたことがあります。
その時はちゃんとした答えは出さなかったんですけど。
―同じような違和感があるんですね。
先ほどの休業後の勤務体系もそうですが、本社に戻ってきてもいいって言われることを考えると、すごく仕事ができる方と評価されていらっしゃると思うのですがいかがですか?
自分で答えるのは難しいかもしれませんが…
えぇ、自分で言うのも恥ずかしいんですが、本社にいたときもグループ会社にいたときも、すぐに昇格はしています。
自分の下に人を付けてもらえていますし。私しかできない仕事や取引先のお客様もいますので…。
客観的に見たらそういうことなんだと思います。
―やはりそうですね。こうやって話していても非常にしっかりしている方だなと感じますよ。
そうですか…?あまり自分ではそんな感じはしていないんですけどね。
―他者の評価ですから、認められているのであればそれは自信をもって誇っていいと思いますよ。
無理にとは言いませんけどね。
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本カウンセリングはここまでが中段となります。
今回のカウンセリングは非常に複雑で心情と事象が彼女の中でもつながっていないことが分かります。
自分自身の心と体調不良は「自分の目的を見失っていた」と答えを出している一方で、新旧の上司同士のやり取りに違和感を感じている、
自分以外の人たち同士が自分にどのような影響を与えているのかが不明確で、そもそも影響が出ているということ自体に気付いていない状況です。
カウンセラーとしては、ご自身である程度は上司同士の関係と自分への影響に気付いてほしいと思っていますが、短期決戦では難しい可能性も示唆できます。
これまで話してもらったことを総合的に判断すると、彼女の心のわだかまりを解消するだけでは、問題は問題のまま残ってしまう可能性があります。
彼女自身が起こしている事象ではなく、彼女が巻き込まれていると捉えられるので、適応障害やパニック障害の引き金はおそらく環境要素が強いと判断しています。
時間的にも、残された時間で明確なカタルシスを感じるハードルは高いでしょう。
継続的なカウンセリングの必要性を感じてもらえるように、残りの時間を使う方向性で進めます。
『なんのために仕事をしているのかわからなくなった
―8年働いた会社の中で起きた人事異動と社内政治 そこで見た景色は絶望だった―(後編)』
神奈川県生まれ。心理カウンセラー・キャリアコンサルトの有資格者。うつ病 / パニック障害 / 適応障害 / 依存症 / などの精神疾患から仕事や日常的な悩みなどを幅広くカウンセリング活動を行う。社会問題から心理学関連、カウンセラー活動記録、研修・教育、など人や仕事に関わるジャンルでライティングを行う。趣味は、アニメ鑑賞、競馬、散歩。採用コンサルタント、就業ケアマネージャーとしても活動。