<はじめに>
この文章は実際の言葉から乖離(かいり)しない程度に、かつ、本人の特定ができないように編集されています。
同じような悩みを抱える人やこれから同じような環境になり得る方に、カウンセリング事例を紹介することで少しでも役立つレポートを発信することが目的です。
このカウンセリングは、本人から直接相談を受けたカウンセリング活動の記録です。
今回の相談者は、メーカー企業に勤務するマーケッター(マーケティング部門)担当の34歳女性です。
ひどく疲れていて、常に涙ぐんでいるような目をしていました。
本来はアクティブな性格で外で時間を過ごすのが好きなようですが、そういった気も起こらず会社で仕事をすることに疲れてしまったとカウンセリングの相談を受けました。
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―こんにちは。
今回はお仕事の件ということですが、どのようなご相談でしょうか。
はい。
自分のキャリアの事と会社での自分の居場所、というか、扱いというか。
そういう相談をしたいと思ってきました。
―はい、ご自身のキャリアと居場所、扱いのご相談ですね。
長く働かれているんでしょうか?
えぇ、26歳で転職してからなので今8年位です。
F社というメーカーのグループ会社で働いています。
―8年だとなかなか長く働かれてますね、すごく大手のメーカーさんですね。
はい。
もともとは本社勤務だったのですが、私の希望でグループ会社の方に異動させてもらいました。
―それは珍しいですね、本社からグループ会社に転籍したのですね。
そうですね、自分からそういった異動をしたのは私だけかもしれません。
本社では商品企画から代理店や店舗に卸すところまで行っていたんですが、その時エンドユーザー(消費者)が購入して嬉しそうに帰っていったのがすごく嬉しかったんです。
自分が携わった商品が実際に売れる現場を見て、もっとこういう人が増えてほしいと思ったんです。
―それは良い経験だったのですね。
しかし、なぜそれで異動を申し出たのですか?
そういったお客さんがもっともっと増えるように、データ分析や企画の面から仕事がしたいと思ってマーケティング部門があるグループ会社に異動届を出したのです。
―そうだったんですか。携わりたいことが明確になったという意味での異動だったんですね。
はい。でも…異動したのは入社してから4年たった頃でした。
マーケティングの仕事は激務で残業も休日出勤もいとわない状況で体調を崩しながらもどうにか出勤していました。
でも…
―でも…?
あ、すみません。
1年前についに体調が完全に悪くなってしまって3カ月ほどですかね、休業をしてしまったんです。
―体調を崩して3カ月休業ですか。
でも休業そのものは悪いことではないので、してしまったという表現が少し気になりますね。
…そう言ってもらえると少し気が楽です。
それでですね、体調も崩して精神的にも苦しかったので、心療内科を受診するように会社から言われて、適応障害とパニック障害と診断をされたんです。
―適応障害とパニック障害ですか、それは大変でしたね。
今は大丈夫ですか?つらくなったら言ってもらって大丈夫なので、我慢しないでくださいね。
ありがとうございます。今は落ち着いているので大丈夫です。
動けなくなるとか重たいめまいはここ1年くらいは症状がないので…。
―よかったです。ちなみにもう通院も終わっているのですか?
はい、また気になったら来てくださいということで終わっています。
薬の服用もしてないです。
―そうですか。すみませんいろいろ聞いてしまって。具合については万が一と言うこともあるので。
では休業したという辺りからもう1度お願いできますか。
大丈夫です、お気遣いありがとうございます。
休業前まで常に多忙だった分、休業中いろいろなことを見つめなおす時間になったんです。
あとは気分転換に好きだった山登りなどに軽く行ったりしました。
―山登りですか、アクティブな気分転換方法ですね。
自分を見つめなおす時間はどういったことを考えたのですか?
はい、山登りしているときは余計なことを考えなくていいですし、空気も景色も奇麗で、何というか洗われるという感覚になるので好きなんです。
後は、自分が何がしたかったんだっけなって考えてみたんです。
―何がしたいか考えたんですね。何か気づいたことなどあったんでしょうか。
ごちゃごちゃになってしまって、まだまとまりきっていないという感じなんですけど、自分はうちの商品でたくさんのお客さんが喜んでもらえるようにって思って仕事してたはずだったんです。
でもいつの間にか忙しいだけになってしまっていて、何のために仕事をしているのか分からなくなったんです。
何も分からないまま仕事をしていて、体が思うように動かせないようになるまで無理してしまったんだなって。
―何のために仕事をしているのか分からなくなった。
そのまま無理して体も心も調子を崩してしまった、ということですね。
よくご自身で自分の心情を理解されているように感じます。
はい。
それで私はもう1つ心に引っかかるところがあるんです。
―心に引っかかるところ?
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本カウンセリングはここまでが前段となります。
ここまでのカウンセリングでは、相談者は休業するほど心も体も悪くしてしまった。
ただ、その原因も自分で理解し、ここまでだと未来に向かって歩いていけるくらいしっかりしている感触でした。
カウンセリングの相談者でここまで自己分析ができている方は少ないです。
そんな彼女が自分の意思でカウンセリングを受けに来たことを考えると違和感がありました。
最後の、心に何かがひっかかるという話の先に何があるのか、しっかりと感情変化を確認しながらカウンセリングを進めていきます。
『なんのために仕事をしているのかわからなくなった
―8年働いた会社の中で起きた人事異動と社内政治 そこで見た景色は絶望だった―(中編)』
神奈川県生まれ。心理カウンセラー・キャリアコンサルトの有資格者。うつ病 / パニック障害 / 適応障害 / 依存症 / などの精神疾患から仕事や日常的な悩みなどを幅広くカウンセリング活動を行う。社会問題から心理学関連、カウンセラー活動記録、研修・教育、など人や仕事に関わるジャンルでライティングを行う。趣味は、アニメ鑑賞、競馬、散歩。採用コンサルタント、就業ケアマネージャーとしても活動。