<はじめに>
この文章は実際の言葉から乖離(かいり)しない程度に、かつ、本人の特定ができないように編集されています。
同じような悩みを抱える人やこれから同じような環境になり得る方に、カウンセリング事例を紹介することで少しでも役立つレポートを発信することが目的です。
このカウンセリングは、社内カウンセラーとしての活動の記録です。
外部カウンセラーとして契約企業の従業員を定期的にカウンセリングするというものです。
相談内容は、仕事以外も含めてその人に関わるすべての相談が可能になっています。
前回のカウンセリングについてはこちらの記事をご覧ください。
―立場としても立ち振る舞いにしても、確かに難しいような気がしますね。
少し具体的に話を聞きたいのですが、よろしいですか?
はい、大丈夫です。
―会社に入る直前、または入った直後と今現在を比べてみて、自分の想像と1番違うところは何ですか?
1番違うところですか…
そうですね、私は高校も大学も自分が考えていることを話して、みんなの意見を聞いたりみんなで一緒に考えたり、そんな学生だったんです。
たまに周りから面倒な顔をされたりすることもあったんですけど。
自分の意見をしっかりと言える人になろうって心掛けていたので…そんな感じだったんですけど。
今は自分の意見を発言することの無意味さを感じたり、そもそも私個人が考えることや思いを伝えたりすることが間違っているんじゃないかって思うんです。
最初からすべての物事が決まっているというか、議論の意味がないというか。
私自身がまだ見えてなかったり知らなかったり、営業だから数字を追わなきゃいけないとかいろいろあるとは思うんですけど…。
―もともと自分の考えを発言することを心掛けていたんですね。それはすごく良いことだと思いますよ。
意見があってそれを誰かに伝えることの正否は置いといたとしても、率直な意見の交換は双方に新しい何かをつかむきっかけになりますしね。
でも、今それが間違っている、最初から決まっているような気がすると感じているんですね。
はい、なんか誰でも良いというか。まだなんの戦力でもないので、それはそうなのかもしれませんけど。きっとそうだと思うんです。
―誰でもいい、ですか。だから存在価値も分からなくなってしまったということですね。
はい。
言いたいことや自分が考えたことが言えないのが社会に出るってことなのかなって。
俗にいう大人になるってこういうことなの?って考えてしまって、すごく無力感だったり不条理さを感じています。
そういうものなんですか?
―私個人の見解として回答しますね。
これはカウンセラーだから、大人だからということではなく、自分の意見をしっかりと相手に伝えるということは誰にも止められることではないですし、言ってはいけない世界があるのだとしたらそれは本来あるべき姿ではないと思います。
人は思いや考えを持っていますし、それは心の中だけで処理できるようなものではありません。
人間がみんなそれをやり始めたらAIやロボットで事足りる社会になってしまいます。
当然、言うべきタイミングや相手、TPOなどを考えて立ち振る舞うことは重要ですが、意見や考えを述べることを我慢してふたをしまうことは苦しすぎます。
あと自分も周りも新しい変化や成長を止めてしまうので、良い行いとは言えないと思いますよ。
ありがとうございます。でも、会社には何があっても従わないといけないんですよね…?
―従わないといけない?なんでそう思ったんだすか?
先輩も支店長も、会社の営業や数字の話ばかりで、私たち新卒は当然のことながら先輩たちにも意見を求めたりする雰囲気ではないですし。
会社の命令だけを遂行しなさいという感じだと思います。
―そ、そうですか…。すみません、私が知っている環境とは変わってしまっていそうで…。
ちょっと想像ができないですね。
この話は後で今回の面談とは別の職場環境改善の名目でちょっと確認してみますね。
はい。ぜひ聞いてみてください。
―話しづらい内容だと思いますが、話してくれてありがとうございます。
いえ、こちらこそありがとうございます。話せたことで少し楽?になったかもしれません。
自分が考えていることが他の誰かに理解してもらえると安心できます。
ちょっと私からカウンセラーさんに質問してもいいですか?
―はい、答えられることであれば大丈夫ですよ。
では、なんでカウンセラーになろうと思ったんですか?
心理学が専攻だったんですか?
―カウンセラーになった理由ですか。まずはじめに私は心理学専攻ではないですね。
カウンセラーになるうえで心理学の学術や知識が必要だったので、独学とスクールに行って学んだんですよ。
なので、心理学が好きだとかそういうことではないんですよね。
カウンセラーになった理由は、ビジネス上のカウンセリングという概念があまりにも軽薄だなと思ったからです。
海外や日本でも特定の企業ではカウンセリングの有用性は高く位置付いていることが多いんですが、
カウンセリング=精神疾患という概念だったりだとか、心が弱いとかそういうバイアスがかかっていることが多いと思ったんです。
カウンセリングはその人が進むべき道を自分で切り開くことの手伝いができるイメージで、
特定の悩みや相談のためにあるものではなく、最上級のコミュニケーション方法と考えています。
なので、カウンセリングの普及とか自分が思うカウンセリングの概念を啓発したいという気持ちが強いですね。
心理学からじゃないんですね…。少し驚きました。
―そうですね、もちろん心理学を学ぶうちにカウンセリングに興味を持つ人も多いですが…。
自分の場合は“カウンセリング=心理学”ということではなく、
人とのコミュニケーションを行ううえで多くの場面で心理学が必要になるという捉え方をしています。
そうなんですか、勉強になります。
―カウンセリングやカウンセラーになりたいという思いがあるんですか?
はい、すごく興味があります。
・・・
(※この後、カウンセリングについての質疑応答を重ねてカウンセリング終了となりました。)
本カウンセリングはここまでで終了となります。
学校から社会に出て、それまでとは違う環境や人付き合いに対して心が疲れてしまっているというのが1番大きいのではないかと考えられます。
一方、知的好奇心や自分が興味があることなどに対しては、非常にポジティブな印象を受けました。
おそらく本来の相談者の姿は、この知的好奇心が強く人付き合いを怖がらない性格の持ち主だと思います。
印象をまとめると、純粋で素直な人懐っこい魅力的な人間性の若者と言えます。
こういう方が初めて社会に出て、自分の想像と実際の社会の差異に困惑し心に傷を負い続けることは少なくありません。
次回、その後のいきさつについて、『今、すごくつまらない―新卒新入社員の女性の苦しみ、存在価値を見失ってしまったその先に―(その後)』でお伝えします。
神奈川県生まれ。心理カウンセラー・キャリアコンサルトの有資格者。うつ病 / パニック障害 / 適応障害 / 依存症 / などの精神疾患から仕事や日常的な悩みなどを幅広くカウンセリング活動を行う。社会問題から心理学関連、カウンセラー活動記録、研修・教育、など人や仕事に関わるジャンルでライティングを行う。趣味は、アニメ鑑賞、競馬、散歩。採用コンサルタント、就業ケアマネージャーとしても活動。