はじめに
この文章は実際の言葉から乖離(かいり)しない程度に、かつ、本人の特定ができないように編集されています。
同じような悩みを抱える人やこれから同じような環境になり得る方に、カウンセリング事例を紹介することで少しでも役立つレポートを発信することが目的です。
このカウンセリングは、社内カウンセラーとしての活動の記録です。
外部カウンセラーとして契約企業の従業員を定期的にカウンセリングするというものです。
相談内容は、仕事以外も含めてその人に関わるすべての相談が可能になっています。
今回の相談者は、派遣会社の総合職、22歳新卒新入社員の女性です。
体力的な疲れは見えず表情に豊かさがあるものの、頑張っているとわかる笑顔や声が少し痛々しく感じられました。
もともとは明るく活発な女性だが仕事をしている様子に違和感があるということで、所属長からの依頼によるカウンセリングです。
―はじめまして。今回は具体的な仕事の悩みではなく、学校を卒業してから仕事をはじめてみてどんな感じか、そんなところから話を聞かせてほしいと思って面談をさせていただきますね。
時間はもらっているからそのあたりは安心してお話してくれると嬉しいです。
お疲れさまです。分かりました…
ちょっと何を話したら良いのか分からないのですが、入社してからの話ですか…うーん…
―ゆっくりでいいですよ。今日は暑いので暑さが落ち着くまで飲み物を飲みながら話しましょう。リラックスしながらでいいのでちょっと質問してもいいですか?
はい。お願いします。
―それじゃ、いくつか質問しますね。学校ではどんなことを勉強していたんですか?
経済学ですね。でも、経済学と一緒に少し心理学も勉強していました。
なのでカウンセラーさんと話すのはちょっと楽しみだったんです。
―そうなんですか。経済学と心理学。楽しみにしてもらっていて嬉しいです。
心理学の方がお好きなんですか?
はい!経済学はなんというか…統計の話ばかりで、あまりなんていうか現実のイメージがつかないというか。
理屈はわかるんですけどそれで?っていった感じで。
心理学の方は人の心の解明みたいな、なんていうか…答えを出すことが難しいことについていろいろな人がそれを研究して発表してっていうのが講義を聞いていて楽しかったんです。
―そうですね、心理学はまだ歴史が浅い学問ですし、未知の世界という部分があるので研究対象としてみると確かに面白いですよね。
就職活動では、将来の夢とか希望はあったんですか?
はい、人のためになる仕事がしたいと思っていました。
―人のためになる仕事?
そうですね、例えば私昔から良く笑ってるねとか、陽気だねって言われることが多くて。
そういうことを言われていたからなのか、自分が働くことで他の人が笑ったり元気でいられるような仕事がしたいなって思ったんです。
―ではいろんな人に笑顔になってもらえるような仕事がしたいと思っているということですね。
ここは派遣会社ですけど、なぜ派遣会社を選んだんですか?
業種業界が漠然としている中で就職活動をしていたんです。製薬会社やコンサル会社、IT 関連などいろいろ説明会には行きました。
そこで話を聞いているうちに“人"に関わる仕事があっているのかなって思ったんです。
あとはTOPインタビュー(社長セミナー)で社長の言っていた、自分の未来の希望とかそういうものが魅力的だなって思ったんです。
でも今は、そう思っていた。というのが正直な気持ちですが…
―え、会社に入って今4カ月くらいですよね。どういう心境の変化ですか?
そうですね、何が変わったのか良くわかっていないんですけど。
ただ、学校を卒業して、入社して研修を受けて、現場に出てから2ヵ月くらいたって、なんていうか自分の存在価値というか、何がしたかったんだっけ…と思ってしまって。
率直にいうとすごくつまらないんです。
―なるほど、具体的な質問をさせていただきますね。なにか日頃、先輩や同期、会社の指示などで違和感を感じることはありますか?
すみません、この話した内容って上司に報告が入ったりしますか?
―いえ、具体的な内容の報告はありませんよ。
伝えておいてほしいことを伝えることはできますけどね。
そうですか、わかりました。
…た、例えば、ですが…今はちょうど営業を1人でし始めているところなんですけど、同じポジションの同期が10人いて、営業獲得数を競い合うことをやっているんです。
1週間が終わったところで、私と後2人は営業獲得が早々にできたんですけど、他の7人が営業を獲れていないんです。その結果に先輩は私のことをすごくほめてくれるんですけど、他の同期のことをすごく非難するんです。
営業が獲れている3人は全員女性で他7名が男性なんですけど、
男性側のことを「全然できてない」とか「才能がない」とか「もっとしっかりしろ」とか、でも同期は同期で仕事の後に反省会をしていて、
営業がうまくいっている人もいっていない人もちゃんと頑張ってるんです。
営業が獲れている3人は、たまたま良いお客さんで、しかも需要があっただけで、たまたまだよねって話しているんですが。
なんか、その何人かの先輩の評価の仕方というか、接し方にすごく違和感があります。
―ありがとうございます。うーん…そうですね、期間的に短いですし、たまたまの可能性もありますが、営業が獲れている人はその人が頑張ったことが実ったということなので、私からはおめでとうとお伝えしておきますね。
他の方はあまりわかりませんが、その頑張りの実りが遅い人もいるので簡単にはなんとも言えませんね。
ありがとうございます。でも決して今獲れていない人が、人として優れていないということではないと思うんです。
―それはそうですね、人として優れていないということは私もないと思います。
その先輩には、ご自身からそういう風に言わないでくださいって伝えたことはあるんですか?
はい、あります。みんな頑張っているので…と伝えたんですが、「結果がすべてだから。
できない人は価値がない人、君は価値がある人だから大丈夫。」と言われてしまいました。
何が大丈夫なんだろうと思って、そのままスルーしてしまいました。
―君には価値がある人だから…ですか。なかなか難しい関係性ですね。
そうなんです。同期も男性と女性で完全に分裂してしまいそうですし、先輩とも関係は壊したくないですし。
ちょっと窮屈というかなんというか…すごく生きづらい感じがしています。
本カウンセリングはここまでが前段となります。
ここまでのカウンセリングでは、相談者を取り巻く環境や自身が置かれている状況について確認ができました。
期待していたことと現実の乖離(かいり)が大きかったり、窮屈さを感じ生きづらいなどという状況であることが分かっています。
カウンセラーとして、このあと状況を展開させていくということは行いませんが、相談者本人が最も楽な状態になれるように話を進めていきたいところです。
この流れのままで、本人自身にとって根本的にどのような感情がどのように作用しているのかを確認しながら話していきます。
後編はこちらから
カウンセリングレポート『今、すごくつまらない―新卒新入社員の女性の苦しみ、存在価値を見失ってしまったその先に―(後編)』
神奈川県生まれ。心理カウンセラー・キャリアコンサルトの有資格者。うつ病 / パニック障害 / 適応障害 / 依存症 / などの精神疾患から仕事や日常的な悩みなどを幅広くカウンセリング活動を行う。社会問題から心理学関連、カウンセラー活動記録、研修・教育、など人や仕事に関わるジャンルでライティングを行う。趣味は、アニメ鑑賞、競馬、散歩。採用コンサルタント、就業ケアマネージャーとしても活動。