カウンセリングレポート|40代会社員女性(前編)

カウンセリングレポート|40代会社員女性(前編)

母親が憎くて仕方ない―40代女性会社員、母親の介護が始まった苦しみと嫌悪感―(前編)


<はじめに>

カウンセリングのレポートは本人の承諾を得ています。

文章は実際の言葉から乖離(かいり)しない程度に編集しています。

同じような悩みを抱える人やこれから同じような環境になり得る方に、

カウンセリング事例を紹介することで少しでも役立つレポートを発信することが目的です。


このカウンセリングは、社内カウンセラーとしての活動の記録です。
外部カウンセラーとして契約企業の従業員を定期的にカウンセリングするというものです。

相談内容は、仕事以外も含めてその人に関わるすべての相談が可能になっています。


今回の相談者は、40代会社員、1人暮らしの独身女性です。

仕事終わりなので少し疲れている表情ではありますが、すごく思い詰めているという雰囲気ではないといった所感。

素直に感情を表に出すような方といった印象です。

―はじめまして。本日はどのようなご相談ですか?

話しづらいのですが、自分の母親のことを相談したいと思い…


―ご自身のお母さんのことですね。

はい。
昨年から介護が必要になって、介護施設に入っているのですが、どうしても母親が憎くて仕方ないんです。


―憎い?とは何かあったのでしょうか。

物心ついた時には母親に対して、なんというか…母親として何か違うというか。

直接的な言葉で言うと嫌いだと思っていたんです。

だから、高校卒業後の大学からは一緒にいたくなくて1人暮らしをしました。
実家から通えない距離ではないんですが、母親と離れたいという気持ちがあったので。


―お母さんが憎くて、大学生から1人暮らしをすると決めたんですね。
今はご自身だけで介護をしていらっしゃるということでしょうか。


そうですね。
父親は5年前に他界していて親戚も兄弟もいないので、私が母親の介護を手伝っています。

施設に入っているので、1週間に1度か2度ですが会いに行って話したり、介護士さんの話を聞いたりするだけなのですが。


―そうでしたか。憎くて仕方ないというと具体的にはどういったことでしょうか。
話せる範囲でお話しいただけますか?


1人暮らしをしてから母親の介護を始めるまで、父親や親戚のことに関する話の時は会いに行って話すことはあったのですが、
定期的に帰省するわけでもなく疎遠のような関係でした。

母親から連絡があるわけでもないので、私からは無意識に距離をあけるようにしていたのかもしれません。


―それでは、大学生になってからこれまでほとんど会う機会もなく、会う必要性も感じていなかったということなんですかね。

はい、言われてみれば母親に会いたくなかったのかもしれません。


―あまり顔を合わせることもなかったところから、お母さんの介護をするということが始まって改めて憎いと感じているということですね。

…今思い返してみると、ここ数年は母親に対する憎さは感じていなかったかもしれません。

介護の手続きをしなければいけないと連絡が入ったときも、面倒だなとは思いましたが、
母親や介護そのものに対してはネガティブ感情ではなかったんじゃないかなって。


―なるほど。では実際に介護施設に入所してもらってから顔を合わせている内に、忘れていた…いや、隠れていた“憎い"という感情がもう1度現れたということですかね。

そうなんでしょうか。自分でもよくわからないのですが、

母親の顔を見るだけでも憎くていらだってしまうというか、ムカついてしまうというような感じなんです。

ちゃんと説明していてもしっかりと聞いていないような気がするし、何か聞いても素っ気ない返事しかしないのもあるかもしれません。

とにかく、顔も態度も何もかもが憎く感じてしまうんです。


―何もかもが憎く感じてしまう、ですか…。

はい、もう本当は介護施設にも母親にも関わりたくないと思ってしまっているんですが。

関わりがあるのが自分1人しかいませんし、

もういい大人ですしちゃんと手続きなどはしないといけないとは思っているので、逃げ出したりはするつもりはないのですが…。


幸いにも私は未婚で子供もいませんし、パートナーもいないので時間に融通が利きやすいのは良かったです。


―途中で逃げ出さないように1人で頑張っていらっしゃるんですね。

具体的に何かお母さんとのエピソードや、憎いと思ってしまうような思い出があれば教えてほしいのですが、お話しできそうですか。 


これといって思い当たることがないんですよね…

子供の頃は母親が完璧主義者で、勉強も運動も1番を目指しなさいと言われてきました。

運動はそこそこでしたが、成績は学校の中でも上の方でした。

そういったプレッシャーを感じていなかったわけではないのですが、
いい成績を取れば怒られたり強く当たられなくて済むので……。そういった関係でした。


―ちょっとつらそうですが、大丈夫ですか。

こういった話をする機会はこれからもありますので、今は無理がない程度の相談から始めても大丈夫ですよ。


ありがとうございます。何気なく相談したつもりなんですけどね…。
ちょっと思い出すと複雑な気持ちになってしまって。


―大丈夫ですよ。では、続きは次回にしましょう。
相談していただいてありがとうございます。


初回カウンセリングは以上です。


この相談者さんの年齢を考えると、一般的に介護が始まる年齢より少し早いかもしれませんね。

母親のことが憎いという感情をストレートに言葉にすることから、
母親に対してゆるぎない気持ちを持っているのだと思います。

学生時代、子供の頃から母親に対しての気持ちが固まっていたところが見え隠れします。

憎いと思っているご自身に対して軽蔑をしているのか、想定できることは多いのですが、

本人が今の感情と過去の感情を整理できるようにしていこうと思います。


具体的なエピソードやご自身の感情について、一緒に検討していく段階に入っていくことを念頭に、次回以降のカウンセリングを進めていきます。


『母親が憎くて仕方ない 
 ―40代女性会社員、母親の介護が始まった苦しみと嫌悪感―(中編)』


この記事のライター

神奈川県生まれ。心理カウンセラー・キャリアコンサルトの有資格者。うつ病 / パニック障害 / 適応障害 / 依存症 / などの精神疾患から仕事や日常的な悩みなどを幅広くカウンセリング活動を行う。社会問題から心理学関連、カウンセラー活動記録、研修・教育、など人や仕事に関わるジャンルでライティングを行う。趣味は、アニメ鑑賞、競馬、散歩。採用コンサルタント、就業ケアマネージャーとしても活動。

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