2022年11月7日、経団連の十倉雅和会長がマスコミへの会見内で、「中途採用」という言葉ではなく「経験者採用」と言うように呼びかけました。
このニュースは11月7日から8日にかけてさまざまなメディアで取り上げられたので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。
ネットでも賛否両論の声が上がっています。
ここ10年以上、さまざまな企業の採用活動を支援するコンサルタントという立場で活動してきた筆者が、「中途採用」から「経験者採用」への移行の難しさをお話しします。
■中途採用の意味を再確認
中途採用とは、そもそも経験の有無に関わらず、一般的な4月入社(企業や業界によっては異なりますが)以外で入社することを言います。
ですので、年度の途中から入ってくる人たちのことを「中途社員」と呼びます。
その方が経験者か未経験者かは関係なく、入社のタイミングの話をしています。
■中途採用が消極的?
十倉会長は、
「中途採用というのは中途半端みたいな感じのイメージが湧きますんでね、私も経験者採用という方が良いと思いますし…。」
と発言しています。
筆者は長年採用コンサルタントをやっていますが、企業側はもちろんのこと、求職者側からも「中途採用」という言葉が消極的・ネガティブ・マイナスイメージだという意見を聞いたことがありません。
どこかの界隈ではマイナスイメージがついているのでしょうか。
私は見聞きしたことがないので定かではありませんが、皆さんはいかがですか?
■中途採用=経験者採用にはならない
続いても十倉会長の発言を要約しますが、
「他の企業などで働いた経験がある人を採用することを経験者採用と呼ぶ」
というようなことを言っています。
それはその通りです。
しかし、それは経験がある人を「経験者採用」と呼ぶのであって、中途採用をやめることとはつながりません。
未経験の場合は「未経験者採用」とでも呼ぶのでしょうか。
そちらの方がよっぽどネガティブなイメージだと思います。
■「経験者採用」というフレーズの陰に隠れる闇
筆者は多くの人や企業の採用を支援する立場として、今回の「中途採用」から「経験者採用」というフレーズの変化に危険性を感じてしまいます。
「経験者採用」という言葉の裏には、対比として未経験の求職者の動きや企業の採用も鈍化する要素が含まれています。
企業側として、経験者ということがマイナスになることはあまりありません。
そのため、経験者は優遇されることが多いだけで、未経験者は優遇も冷遇もされません。
しかし、未経験者に冷遇しないというものの、どうしても比較されるので、今よりもさらに未経験者の採用は鈍化していく予測がつきます。
■キャリア機会の損失と新人育成体制の衰退が日本に追い打ちをかける
最大の問題点としては、やはり“未経験者の育成”と考えます。
資金難や人材難であればあるほど経験者が優遇される社会になります。
しかし、この解決方法として未経験者の育成が最も理にかなっているのも事実。
今の30代以降の方々は口をそろえて「今の若者には夢がない」「やりたいことがない」「挑戦しない」などと言います。
確かにその傾向はあるかもしれませんが、未経験者が経験しなければ永遠に未経験者のままです。
今度はそのキャリア形成の機会さえも奪うようなことになりかねません。
若手がいろいろなことにチャレンジして経験を積む。
その結果、日本社会のさまざまな業界や現場で芽を出したり、世界に通用するような人間が生まれてくるかもしれません。
そういった環境が切磋琢磨という状況を作り、さらなる価値のある人間を作ると私は考えます。
将来的に日本が良くなるような施策を経団連には進めてほしいですね。
神奈川県生まれ。心理カウンセラー・キャリアコンサルトの有資格者。うつ病 / パニック障害 / 適応障害 / 依存症 / などの精神疾患から仕事や日常的な悩みなどを幅広くカウンセリング活動を行う。社会問題から心理学関連、カウンセラー活動記録、研修・教育、など人や仕事に関わるジャンルでライティングを行う。趣味は、アニメ鑑賞、競馬、散歩。採用コンサルタント、就業ケアマネージャーとしても活動。